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その十一

世界に誇る日本の伝統芸能である「能楽」には、小鼓、大鼓、太鼓と
いう三種類の打楽器が使われます。「イヨォー、ホォー、ハァー」と
迫力ある掛け声をあげながら「ポン、ポン、ポン」と小気味よく響い
てくるのが、囃子方の演奏する鼓なのです。

この鼓の演奏に欠かせないのが「調べ緒(しらべお)」という麻でで
きた紐。鼓の構造は、表と裏の二枚の皮で木をくりぬいた胴を挟んで
締め上げています。表皮と裏皮をつないでいる紐が「調べ緒」なので
す。太鼓のようにきつく締める場合もあれば、小鼓のように締めたり
弛めたり調節しながら使う場合もあります。

「調べ緒」の原料は、日本麻が使われます。今では、栃木県の鹿沼と
いうところでしか栽培されていないそうです。薄いグリーン系の色を
もつ麻を、白くするために干します。その後、あく抜きをするために
一週間ほど水にさらします。そして、棒で叩いたり、踏んだりして、
繊維を平べったくしていきます。それを一週間ほど続けると白い綺麗
な繊維になるのです。

「調べ緒は、硬く柔らかく綯(な)う」のがよいとされているそうで
す。これは、ちょっと矛盾した言い方のようですが、現代風にいえば
「形状記憶合金」のような感じでしょうか。フレキシブルに動くのだ
けれど、どんな具合に変形させても元の形状を覚えていて、そのカタ
チに戻ろうとする。そんな特性を持たなければ「調べ緒」として機能
しないのだそうです。

この綯った麻紐をさらに漂泊して、お湯で炊いて、あく抜きをして、
染色します。8割方、乾いたところで蒸らします。麻紐は縒(よ)っ
てから染めます。外の方から乾いていくので、紐の芯の方には湿り気
が残ります。それを抜くために蒸らすのです。その後、外に出てくる
毛を焼き、ひげ切りをして、縒りをかけて油を塗って、とじ糸で縛っ
て箱にしまう。それで一週間くらいそのままにしておくと、パンみた
いに膨らんできます。これで「調べ緒」の完成なのです。

丹精こめてつくられる「調べ緒」。奏者が思い通りの音を出すために
欠かすことのできない、大切な道具のひとつなのです。そんな道具に、
麻糸が持つ、しなやかで強いという特性が生かされているのです。そ
んな麻の力を知っていた古人の知恵が、現代まで脈々と受け継がれ、
世界に誇る伝統芸能を、しっかりと支えているのですね。

さて、いかがでしたか。次回もどうぞ、お楽しみに。
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